大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 平成6年(行ツ)249号 判決

上告人

甲野春子

右訴訟代理人弁護士

山根剛

被上告人

岡山県知事

長野士郎

右指定代理人

白井成彦

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人山根剛の上告理由について

恩給法七二条一項は、厚生年金保険法三条二項、国家公務員等共済組合法二条一項二号イ等の規定と異なり、「配偶者」に、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む旨の定めをしていない。したがって、恩給法七二条一項にいう「配偶者」は、公務員と法律上の婚姻関係にある者に限られると解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、憲法違反をいう点を含め、右と異なる見解に立って原審の右判断における法令解釈の誤りを主張するか、又は右誤りのあることを前提として原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官河合伸一 裁判官中島敏次郎 裁判官大西勝也 裁判官根岸重治)

上告代理人山根剛の上告理由

一、恩給法第七二条の配偶者とは、戸籍上に配偶者と記載されている者を意味するものではない。即ち、請求をすることのできる者は生前配偶者(夫ないし妻)が公務員であり、その配偶者の給与により生活を維持してきていた配偶者に対して公務員であった配偶者の死亡により、生活の基盤が失われた遺族に対して支給されるものであり、恩給法に基づく扶助料の請求を公務員であった者と共に生活していた配偶者及び遺族に扶助料を認めているのが恩給法の立法主旨である。

このような恩給法に基づく扶助料の立法主旨からすれば、恩給法第七二条に規定する配偶者を、単に戸籍上に名前が記載されている配偶者に扶助料の請求を認める法的根拠は全くないのである。

本件においては、乙川夏子が虚偽の婚姻届(亡乙川太郎の署名・押印を偽造して届出をしたものである)を提出したため、本件が生じたものであり、亡乙川太郎と乙川夏子の婚姻届出は、亡乙川太郎の婚姻の届出の意思を欠くものであり、署名・押印が偽造されたものであり、無効なものである。

このような無効な婚姻届出の記載があっても、それを法律上形式的に有効なものとして扱う合理的な理由も法的な理由も全くないのである。(甲野春子は、現在、亡乙川太郎と乙川夏子との婚姻届出が無効であることの確認の訴えの準備中である。)

原判決は、当事者の主張がなかったからといって、亡乙川太郎と乙川夏子の婚姻届出は、亡乙川太郎の婚姻の届出の意思を欠くものであり、署名・押印が偽造されたものであり、無効なものであるとの事実認定の判断を誤ったものであり、原判決を破棄しなければ判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違法である。

二、本件においては、甲野春子は三〇数年間に渡って夫婦として生活を共にしており、甲第二号証に本件の全ての事実関係が明らかにされている。

厚生保険法は戦後改正されて、生活を共にしていた遺族については、生活の実態を重視して、その生活の主体であった配偶者(夫ないし妻)の遺族の保護をするように改正されたために外縁の妻にも遺族厚生年金が支給されるようになったものである。

恩給法は戦後改正されないまま、戸主・家督制度を主体とする家制度の改正を行っていないものに起因するものである。

このような取扱は、恩給法が改正されていないことに基づくものであって、最高裁判所が判例を改正されることにより、恩給法第七二条の配偶者(夫ないし妻)に対する解釈が厚生保険法に基づく配偶者(夫ないし妻)と同じように解すると判断されれば、恩給法も改正され、恩給法と厚生保険法との法的な不平等がなくなるのであり、原判決は憲法第一四条の法の下の平等の規定に違反して、恩給法第七二条を解釈しているのであり、違法である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例